台湾系企業の日常
私は2016年から台湾人オーナーが経営する台湾企業に勤めています。一度転職しましたが、2社とも台湾企業です。同じ台湾在住でも、日系企業に勤めている日本人とは違う日常を過ごしていると想像します。
私の勤め先には日本人は私一人で、同じフロアには約25人の同僚がいます。
私は基本的には内勤で、朝から夕方までオフィスで過ごす時間が長いです。
みんな基本的には仕事を進めているのですが、仕事以外にもオフィスでいろいろなことができてしまうのです。観察しましたので一部ご紹介します。
デスクでみんながやっていること
爪切り
日本で会社勤めしているときは、席で爪切りをする人を見かけたことがありませんでしたが、台湾ではよくパチンパチンといい音をさせながら本気の爪切りをしています。(ちょっと欠けちゃったから切っている、とかではなく指10本分の爪を切っています。)
あるいは爪やすりで堂々とガリガリと爪を削っているケースもあります。表面をツヤツヤにさせているのではなく、長さを調整する方のヤスリがけです。
しているのはベテラン女性社員が多く、反対に20代の女性社員の場合はあまり爪切りはせず、ネイルをしているケースが多いです。
母乳の搾乳
デスクで母乳を絞ることもできます。
台湾は法定の産休は基本的に8週間、育休は6ヶ月です(労働部)。このため授乳期のお母さんが出勤しているケースは多いです。
日本人にとってみると、産休も育休も短いと感じるかもしれませんが、会社独自の福利厚生を設定するにしても、離職率が高いため、社員を大切にしたところでリターンがまったく得られないという可能性が高いです。
昼休みに「ウィーーン」といういう音が聞こえたら、それはベテラン女性社員が席で母乳を絞っている音です。
タオルを頭からかぶって、何をしているか見えないようにはしています。
同じフロアには男性もいますが、男性社員も気を使って、乳搾りを当然のことのように認め、その間はベテラン女性社員の方は見ないようにしています。
トイレでやればいいのにと思われるかもしれませんが、トイレも日本のオフィスビルのように広くはなく、ものを置けるスペースはほとんどないので、デスクで搾乳していても誰も何も言えないのかもしれません。
昼寝
台湾は昼寝の習慣があるので、昼休みの後半にはデスクで昼寝します。
だいたい13:00近くから13:30まで、ほとんどの社員がデスクに突っ伏して寝ています。聞くと伏せて休んでいるだけ、という人もいて、実際にぐっすり寝ているのは少数派かもしれません。人によっては昼寝用クッションを持参しています。なんとなくみんな昼食を取り終わったとみられる頃に、誰ともなく電気を消してオフィスを暗くします。オフィスのカーテンは普段から閉め切られているので、電気を消すと即暗くなります。
少数派の起きている社員は会社のパソコンを使って好きな動画を見たり、スマホを見たりしながら過ごしている人が多いです。
お給料が安いからスキを見て遊んじゃう
指示された仕事が終わったら、こっそりネットショッピングをしたり、スマホでゲームをしたり、小説を読んでいる社員がいます。日本で上司に見つかったら、なぜ自分から進んで仕事を探さないのかと激怒されそうですが、上司も空き時間にスマホでゲームをしているので、見つかってもあからさまに怒られている人は見たことがありません。高いお給料を払えない会社側もあまりきつく言えないのかもしれません。
がんばりがボーナスに反映されない、お給料が上がりにくいポジションの人ほどそうした行動を取りやすいように見えます。台湾のフルタイムの最低賃金は月給2万3,800台湾ドルです(台湾労働部 2020年1月現在)。仮に1台湾ドル3.6日本円とすると、日本円で8万6,000円を切ります。台湾の物価がいくら安いからと言っても、台北や台北周辺の新北だと一人暮らし用のワンルーム6畳程度のアパートが1万元(3万6,000円)やそれ以上しますので、かなり低い水準と言えると思います。
そういうお給料で雇われるのはどんな人材かというと、いわゆるフレッシュマンです。でもフレッシュマンと一口に言っても、例えば言語能力はすでに英語でビジネスの話ができるレベルだったり、すぐに会社やビジネスのルールになじんで、数ヶ月も経たないうちに立派な戦力になっている社員もいます。それでもこのお給料なので、指示されたこと以外はせず、たくさんの若者が一年経つか経たないうちに最初の仕事を辞めてしまうのも納得できます。
フレッシュマンに限らず、一部社員に個人のスマホを仕事に使わせており、それを会社も黙認しているので、スマホをいじっていても、仕事で使っているのか遊んでいるのか区別がつかないということもあります。取引先との接点がある社員全員のスマホ料金を会社がまかなえない(まかないたくない)のです。
デスクでドラマ鑑賞
お給料が低いということとも関係あるのですが、お局様がスキを見てはデスクでドラマ鑑賞しています。これは若い人にはあまり見られない光景で、勤続約20年のベテランアシスタントさんに多いです。
電話がバンバン鳴って忙しいときもあるのですが、そうでないときもあり、そんなときはデスクで堂々と見ています。
ただ、仕事を中途半端にしているかというとそうではないんですね。商品知識も豊富で、トラブル対応・事務処理能力などは下手な管理職よりもずっと高いです。その一方で、お給料はこの20年間、一銭も上がっていないとか…。ここ数年だけでお弁当がひとつ5元から10元値上がりしていますから、20年据え置きはひどいと思いますが…。
会社にとっては、いなくなられたら大変な存在です。お給料以上の仕事のパフォーマンスを発揮しているので、ヒマなときは何をしていても怒られないんですね。
引き出しからいろんなものがはみ出す
引き出しからものがはみ出している状態のことをうちの両親は「出戻り」というのですが、要はそう言う状態にしておくような女はたとえ結婚できたとしてもすぐに離縁されてしまうと言う意味で使われています。
女だから綺麗にしなければいけないと言うのは納得いきませんが、小さい頃からとにかく引き出しからものがはみ出していると怒られていた私としては、台湾オフィスの状態はまだまだ慣れないものがあります。
けっこう身だしなみがきちんとしている同僚でも、引き出しからけっこうな確率でものがはみ出しています。とても気になりますが、自分の文化を押し付けるのはエゴなので、なるべく見ないようにして過ごしています。
ビルの中で起こること
道教のお祈り
台湾だと地元の信仰で、旧暦の1日・15日と2日・16日に家やビルの一階でお菓子などの捧げ物をしてお祈りをしているのを見かけます。特に商売に関係あるのが「1日・15日」だそうで、ビルの一階部分で黄色い紙で作られたお札を燃やしたり、お線香をあげたりしてお祈りしているのを見かけます。
なぜ商売のお祈りを「1日・15日」に行うようになったかは諸説あるようなのですが、一説によるとこの二日間を売り買いの取引と決めていた歴史があって、それが転じて日頃の感謝と商売繁盛を願う日になったということのようです。(三立新聞網”寶島神很大“)
しかし、私の勤め先と同じ階に入っている会社では屋内でも気にせずたくさんのお線香を使用します。このため、お線香の煙が私たちのところまで漂ってくると、今日は旧暦の1日か15日であることがわかります。
防犯装置などは作動しません。
ちなみにたくさんの台湾人が道教を信仰しており、同僚がもらい事故に遭ったり、担当している輸入商品が税関で長く止められたり、業績が思わしく無くなったりすると「お祈りに行きなよ」という会話が聞こえてきます。
旧暦の正月明けの日には、朝会議を開いた後、社員の多くが一緒に行天宮へお参りに行きます。ただ、私のいるフロアだけでも数人キリスト教徒がおり、彼らはお留守番となります。
台湾の宗教についてですが、2019年の台湾行政院の宗教統計を見る限りでは、やはり道教が一位となっています。
ただ実際には、道教の信者が仏教のお寺に出入りしたり、その逆もまたあるようで、多くの台湾人にとって道教と仏教の境目はとてもあいまいなものになっているようです。
たとえば私の夫は台湾人ですが、義父の家は仏教、義母の家は道教を信仰しています。でもどちらの親戚の冠婚葬祭にも違和感なく普通に出席しています。
害虫と仕事の範囲〜余計なことはとにかくやらない
オフィスにいると、特に夏の時期には例の害虫を時々見かけます。廊下や通路に殺されてそのまま放置されていることが多いです。おそらく、ビルの清掃員がやるべきと思っているようです。
私は目立つ場所に死体が転がっていた場合は自分で拾って捨てますが、私の勤め先が入っているビルで私以外にそうしている人を見たことはありません。
自分の役割の線引きをしっかりしている人が多いです。
害虫が転がっていて気持ち悪いということよりも、自分の担当以外の余計なことをしたくないという考えが勝つようです。
オフィスの話からはずれてしまうのでが、以前スーパーに買い物に行ったとき、レジの手前にたくさんの生卵が落ちて汚れていることがありました。レジ担当者は10人以上おり、皆卵に気づいているようでしたが、誰一人掃除をしようとはしません。
スーパーのサービス向上や、割れた生卵が近くにいつまでも放置されていて気持ち悪いということよりも、自分はレジを打つ係であり、掃除は担当外であるという考えが勝っているようです。
踊り場の住人
私の勤め先が入っているビルの最上階には、デスクと簡易ベッドが置いてあります。
入社当時は一体なぜなのかわからなかったのですが、そこには不定期で管理人がデスクについており、トイレ掃除担当の清掃員が簡易ベッドで寝ています。そこは電気がついておらず暗いので、一度知らずに通りかかったときはギョッとしてしまいました。
踊り場は踊り場で部屋ではないので、私は人がいてもかまわず通っていますが、他の同僚は皆遠慮して、そこをなるべく通らないように過ごしています。あたかもその空間は彼ら二人の控え室であるかのようです。おそらくビルの部屋数が足りず控え室が作れなかったため、強引にデスクと簡易ベッドを置いて休憩所を作ったのでしょう。
まとめ
今回のお話をものすごくざっくりまとめると、台湾にある台湾系企業では
●社員が自分で自由に使える時間を最大限にしようとしている
●離職率が高いので福利厚生も薄く、その点では社員も会社には特に期待していない
●物価に対して、アシスタント職のお給料は特に低く、社員のやる気も総じて低い(新卒の社員は1年くらいあるいは1年未満で転職するケースが多い)
●社員は自分の仕事の範囲外のことはできる限りしない
特に、「社員は自分の仕事以外のことはできる限りしない」の部分は、台湾の教育方針も関係しているかもしれません。というのも、高校から文系理系をぱっくりと分け、日本よりも偏った、良く言えばスペシャリストを育成する、悪く言えば日本よりも偏った教育をしているからなのではと推察します。
たとえばこれまで仕事の上でも、英語はビジネスで使えるレベルでも、「1トンが何キロなのか」がわからない、といったように、知識/技術が偏っている人を何人も見てきました。
(日本と台湾のどちらがいい悪いではなく、実際にこういうことがある、ということです。)
もし台湾の部下にやってほしい新しい仕事がある場合、具体的な仕事の内容と範囲を細かく伝えて、その仕事をすることによって得られる報酬やメリットを伝えれば、うまく行くかもしれません。
その際、技術職ほど潰しや融通がが効きませんので、本当にその人が能力的にその仕事ができるのか、あらかじめ詳しくチェックすることが必要だと思います。
以上、台湾のオフィスで起こっている仕事以外のことの観察記録でした。
あるある!と思ってくださった方、あるいは同じく台湾で働く方でも違う体験をしているという方など、コメントくださるとうれしいです。
コメント