クビストーリー3:同僚が突然消失/台湾あるある商品流用/能力が高いほど目の敵に

台湾カルチャーショック
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こんにちは、たまごです。

今回は、私の友人のTの同僚(台湾人)がクビになったケースです。(ということにします。)

ある朝出勤すると、前日まで普通に出勤していた同僚がいなくなっていました。Tにとっては衝撃的な出来事だったのですが、他の友人に聞いてみたらまったく珍しい話ではなく、実は「台湾あるある」だったということがわかりました。

ある朝いつもどおり出社したら、同僚が消えていた

Tは台湾にある、台湾人オーナーが経営する商社で働いています。ある朝、いつもどおりの時間に普通に出勤したら、いつも早めに出社している同僚AとBの姿が見えません。デスクが二つ分空になっていて、その横のゴミ箱が満杯になっていました。

A・・・営業職や購買部などのつなぎ役

B・・・部門のリーダーで部長補佐、営業職出身

その後、普通どおり朝会が開かれます。AとBについては何の説明もされません。通常であれば、部長補佐のBが定例朝会を仕切っていましたが、その日は役員が前に出てきて朝会をしました。

会社の商品を流用(台湾あるある)

Tはいったい何があったのかわからず、社外の台湾人の友人に「同僚がある日突然クビになってびっくりした。理由がわからないの」、と話したら

「そのクビになった人って営業?たぶん会社の商品を流用して自分で商売してたんじゃないの?」

とサラッと言われました。よく聞くと、その友人もやったことがあるとか…。営業職が勤め先の商品を流用してマージンを得るのは、台湾あるあるなんだそうです。

Tの勤め先では福利厚生の一環で、家庭でも簡単に使える商品の一部に関しては、社割で希望する社員に提供していました。その後わかったことですが、AとBは協力してその社割で購入した商品を転売して、マージンを得ていたのです。

ただちょっとおかしいなと思うのが、そんなにマージンが得られるほどの数量・・・一年で何百ケースとか、何千ケースとか・・・を個人名義で買っていたのなら、会社はもうかなり前から気づいていたはずです。しかもそういうことをやっている社員はAとBだけではなく、他にも数人いました。でも、他の社員は特におとがめはなしでした。

要は、このAとBは特に役員から嫌われていたのですね。


ちなみに「クビになる」ことを、「炒魷魚(ツァオヨォユゥ、イカを焼く)」と言います。由来は、香港の出稼ぎ住み込み労働者がクビになったとき、荷物・・・自分の布団をクルクル巻いて去っていくその布団のクルクルを、イカを焼いたときクルクルッと反る様子に例えだんだとか。私もよく使っている台湾頻出中文です!(ほんとはあんまり使いたくない…(^_^;))

参考:KK News

關於「炒魷魚」這一詞的由來,還要從舊社會說起 - 每日頭條

前から起こっていた奇妙な出来事

さて、Tの職場ですが、あとから考えると、このクビ事件の前からおかしなことが起きていました。

スマホを持って長々トイレに入る同僚

トイレが異常に長い同僚B。最初は、中で聞かれたくない/見られたくない家のことでもやっているのかと思いましたが、毎日のように、お昼休みはもちろん、1日に何回もスマホを持って個室で10分以上長々過ごしていました。勤務時間中、何十分もデスクを離れることもありました。

Aが「Bはトイレで大きい方してるから」とごまかしていましたが、今思えば、他の同僚には知られたくない取引をしていたのでは?と邪推してしまいます。

自分を上司だと勘違いした平社員

クビになった二人のうちAは、役職は何もついていませんでしたが、まるで自分が上司であるかのような言動をよくしていました。

Aは、管理部門や営業職や購買担当、アシスタントのつなぎ役、コーディネーターのような役割を担うポジションでした。この人は性格的にも、いろいろなことによく首を突っ込んで世話を焼くタイプです。そういうこともあって、何かわからないことがあると、Aに質問する同僚が増え、情報もAのところにたくさん集まるようになりました。一つひとつの仕事も丁寧で、そういう意味では優秀だったんだと思います。そうしているうちに、Aが同僚に対してあたかも自分で指示を出すような業務の流れが、パターン化してしまいました。

会議の時に座る席も、Aに自分の立場を勘違いさせた要因になっていたと思います。Aの担当していた連絡係は、会議の書記も担当していたのですが、会議の時に部門のリーダーと一緒に会議室の奥の方、議長席に座ります。この席に座っていると、役職者ではない自分もあたかも上司のような気持ちになってしまったのでしょう。報告者が話し終わった後に、その人にコメントや意見を言ったりして、まるで部門長の隣に座る副部門長のような雰囲気でした。

役職者でもないのに「指示」を出せてしまう状況がだんだん当たり前になって、徐々にこれが万能感に変わってしまったのかもしれません。A(とB)は社内の役割分担やシステムを自分で操作しようとし始めます。

ある日Aは国際業務担当のTに、

「これまで私(A)が担当していた国内業務の一部は、国際部が担当することになったから」

と言います。

国内関連の業務は国際部の仕事ではありません。ですが、Aから「今の管理部門の考えはこうなんだよ。この前の会議で決まったの」と言われて、Tは信じてしまいます。

その国内の業務は、難しい内容ではないのですが、様々な部門に書類を回したり、商品の包装をしてラベルを貼ったりと、意外と時間と手間がかかる業務でした。Tは、国際部の社員に外国語が必要のない仕事、本来の仕事内容とまったく関係ない仕事をさせるのはおかしいと感じていました。でも誰もやる人がいないと困るのも事実なので、忙しい合間を縫って、この仕事をいやいやながら引き受けていました。

そんなある日、誰かが勝手に、Tを申請者とした申請書を回し始めたのです。その内容は、国内事業用の社内システムをTにも使わせるようにする申請で、申請書には部門リーダー、Bの確認のサインがしてありました。もしこの申請が通ると、この前からいやいや始めたTの国内業務の範囲がさらに広がることになります。

その申請書は社内で途中まで承認手続きが済んでしまったのですが、役員の目にとまり

「どうして国際業務担当者が国内システムを使う必要があるの?」

という疑問が出て、初めて問題が発覚しました。

Tは役員に呼び出され、どうしてこんな申請書を回したのか聞きかれます。でも、Tにとっては寝耳に水で、まったく知らないことです。危ないところで、自分の仕事ではないことを、さらにたくさん押し付けられるところでした。

よい機会なので、Tは役員に、前からおかしいと思っていたこと・・・「国際業務担当者なのに、国内の雑用をさせられていて、変だと思っている」という話をしました。

すると役員は驚きます。Bは、Tに国内業務をさせることは「管理部門の会議で決まったこと」だと言っていましたが、実は、役員や会社の管理部門はそもそも、そんな意向はなかったのです。

その後役員が調査して、申請書を勝手に回した”犯人”は見つかり、今後はこういう問題は起こらないから安心するように言われました。結局役員は”犯人”が誰だったかは教えてくれなかったので、はっきりとはわかりません。役員は、これ以上この件に執着しないように言います。でも状況証拠から見て、AとBが副業に専念するために、自分の仕事を国際部に押し付けようとしたのではないか?と思ってしまいます。

他にも、業績は前年度よりも上がったのにTのボーナスが下がったことがあって、役員に「ボーナスは一体どう計算しているのか?」たずねたことがありました。役員が調査した結果、どうやら失敗した案件の責任が、誰かの手によってTが所属する国際部のせいにされていた”らしい”です。(この調査結果も本当かどうかわかりません。Tは偽申請書の一件で社内の人に対して人間不信になってしまったので、もう社内の誰が言うことも信じられなくなってしまいました。)


連絡係が自分があたかも上司であるかのように勘違いしてしまうパターンは、日本でもあるようです。この前NHKの「逆転人生」という番組で、とある旅館の立て直し成功ストーリーが紹介されていました。その旅館では以前、情報がフロントに一手に集まってしまっていて、フロントが社員のみんなに指示を出すようになってしまっていて、上司でもないのに偉くなってしまったような気持ちになっていたようです。

その後この旅館では、タブレットを使って、みんなでほぼ同時に情報を共有できるシステムを作ります。このおかげで、フロントに指示されなくても、社員さんが主体的に働けるようになったそうです。

Tの会社では、たとえ時間がかかっても、稟議書には役員のチェックを必須にし、会議室の議長席には役職者以外は座らせないようになりました。NHKで紹介していた旅館とはだいぶ異なり、前よりも役員の力が強くなり、トップダウンがひどくなってしまったTの勤め先ですが、少なくとも、他人の名前を無断で使った怪・申請書が回ることはなくなりました。Tも自分を守るために、社内で回す文書には必ず手書きのサインを入れるようになりました。

▼NHK 「逆転人生」

NHKオンデマンド|エラーが発生しました

なぜ罪悪感がないのか?

さて、会社の商品を流用している営業職はどんな気持ちなのかというと、台湾の企業のお給料は割に合わないくらい低いので、やっていられないという思いが根底にあるんだそうです。言い換えると、会社のやり方そのものがブラックだったりするので、自分だってこれくらいやってもバチは当たらないという気持ちだそうです。

会社への不満が募っていた背景

数年前の社長の代替わりをきっかけに、販売目標が上がった一方、リベートは上がらず、営業職を中心に不満が高まっていました。

そんなところに、同族の新しい役員が就任しました。その役員は業界の素人であるのに加えて、「出張」と称して一ヵ月以上会社を空けることが頻繁に起こりました。基本的に出張の報告は何もありません。

役員が「出張」から帰って来た時「海外の展示会を視察してきた」というときもありました。でも、成果はたった一枚の商品紹介リーフレットだけで、しかも持ち帰ってきた本人は全く中身を読んでいないというありさまでした。こんなことが続いたので、社内の志気はどんどん下がっていきました。

AとBも、「自分たちが理不尽な目に合っている」という気持ちが先に立っているので、あまり罪悪感はなかったのかもしれません。

クビになる人とならない人の境い目

ところでTの勤め先では、給料泥棒がクビにならず、キーマンが突然切られます。

会社の商品を流用していたのは確かにいけませんが、AとBは会社への貢献度も高い社員でした。クビにするにしても、もっとちゃんと引き継ぎをするべきだったと思います。

その後、別の営業職で、やはりお客さんから個人的にマージンを得ていた社員Cが退職します。このときは、社員が自分から退職を切り出しますが、会社は「待ってました」とばかりに、当日のうちに会社を去るように命じます

会社にとっては気に入らない存在だったかもしれませんが、この営業職も素養や専門知識があることはもちろん、勉強熱心で、まだ台湾でメジャーではない商品のプロモーションがとても得意な社員でした。お客さんとの関係性を築くのも上手で、専門的なことで何かわからないことがあると、お客さんの方からどんどん問い合わせをしたくなるタイプの営業職でした。

お客さんによっては、大きい会社ほど担当業務によって担当者を細かく分けている場合がありますよね。担当者ごとにお付き合いのしかたも、少しずつ違ってくるはずです。

でも、当日すぐに追い出すことで、きめ細かい引き継ぎができないので、後任はお得意様の窓口、キーマンを探すところから始めるという、わけのわからないことが起こります。

会社は、営業職だったBとCの欠員補充のため、新しい営業職を探します。BもCも肩書のあった社員です。専門分野の学歴や素養も、営業経験もあり、部門をまとめたり、専門的な意見を出したり、営業職のサポートをして業績の維持向上を助けたりしていました。しかし役員はなぜかフレッシュマンを採用します。理由はただ一つ、「扱いやすいから」です。

新しい営業職のレベルが低すぎるので、お客さんによっては何かと理由をつけて、会ってくれません。お客さんの中には専門知識のある前任者に連絡を取っている人もいると想像します。この営業職のレベルがどのくらい低いかというと、自分が売る商品の規格書を見もせず、持って行きもせず、裸一貫でお客さんを訪問するというレベルです。面談を断るお客さんの気持ちはよくわかります。

それでも、この新人はクビになりません。今この会社は、先代が築いた大口のお客さんに頼って、現状維持するのが良しとされています。優秀な人よりも、会社に意見しない人が好まれるのです。ある程度優秀な人材はもちろん喜ばれますが、優秀過ぎれば目の敵にされるか、社員本人が会社の馬鹿さ加減に耐えられません。

能力が低くても、見せかけの業績があり、会社に対して腰の低い態度を取っていれば、クビにはならないのです。”見せかけの”業績と言ったのは、自分が営業して発注をもらっているのではなく、実は先輩たちがフォローでつなぎとめている受注だからです。

会社の未来

Tの勤め先は、家族経営の老舗の会社です。先代は一代で仕入先も販売先も開発してきた商人です。でも今の役員は、会社の利益で自分の生活は維持したいけれど、まじめに経営する気はなく、経験も知識もありません。多くの社員も既存のお客さんの受注に頼っていて、現状維持に甘んじている傾向があります。こういう会社は日本にもあると思います。

経営側が新しい代になり、積極的に新しい商品やお客さんを開発する優秀な社員をクビにしたり、退職するよう仕向けたので、数カ月後、会社の業績は下がり始めます。潰れはしないでしょうが、このままでは会社の規模は縮小しなければならなくなるでしょう。

おわりに〜もっといいやり方があったはず 

今日は、「商品・サービスの流用は台湾あるある」、「連絡役は自分の立場を勘違いしやすい」、というエピソードでした。

Tの勤め先は、社員をバッサリ切って解決させていましたが、他にもっといい方法があったんじゃないかな、と思います。

転売Okな会社例

知り合いの社長さん(台湾人)も、商社を経営していますが、この会社でも家庭で使えるような商品の社割制度を取り入れているそうです。その社割で何か問題があったことはないか聞いてみると、やはり、営業職が自分でマージンを得ているケースがあるそうです。でもこの社長は

「社員には、社割の商品をお客さんに売っていいとはっきり言ってる。会社に悪影響が出なければ別にいいんだ。商品が売れて、営業職も毎月目標が達成されていれば、自分は何も言わない」

という考えです。

Tの勤め先でも、いきなり社員をクビにするのではなく、もっと会社のためになるやり方があったんじゃないかな…と思います。実際、社割で何百ケース、何千ケースと商品が売れていたのはすごいことです。社割なので利幅は薄くはなりますが、それでも会社の利益になっていたのは事実なので…。

私が社長だったら、お得意様用に、社割制度と同じくらいお得な価格設定をします。転売に関わっていた社員の処分はしますが、営業職のリベート率を先代のときのレベルに戻す提案をします。少なくともこれで、既存のお客さんはしばらくは維持できるんじゃないかな…と思います。

社内のわだかまり・疑心暗鬼

Tの職場の役員は、社内で起きた奇妙な出来事や、突然のクビに関して、結局詳しい説明はまったくしませんでした。てん末がわかったのは、あとからいろいろな人伝いに集まった情報がつなぎ合わせられたからです。

もし社内でてん末をオープンにして、謝罪でもしてもらえていれば、わだかまりも残らなかったのでは…と思います。

元々はAもBも、Tにとってはすごくいい人たちでした。仕事のことだけでなく、プライベートなことも相談に乗ってくれたり、仕事以外にも食事に行ったり、実家に帰ったと言っておみやげをくれたり、コロナウイルスの発生のあと一時入手困難になったマスクをたくさんくれたり…。

でも、この一件があってから、疑心暗鬼になってしまいました。「色々良くしてくれたのも、純粋に親切でしてくれたのではなく、“罪滅ぼし”のつもりだったのかなぁ…」なんて思ってしまって、Tは少しだけ人間不信になりました。

今日はここまでです!

コメント

こばやし・たまご。台湾新北市在住。東京でのサラリーマン生活、オーストラリア留学を経て、2016年より台湾企業に勤務。
ムカつくこともあるけれど、私、台湾が好きです。

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