こんにちは、たまごです。
日本人駐在員と台湾ローカル社員には埋められない壁があります。日本人駐在員から見ると、コロコロ転職する台湾人社員の気持ちが分からず、単に「忍耐力がないから」「仕事をナメてるから」と勘違いしているパターンがあります。
確かに我慢強さがまったくない社員もいると思うのですが、大部分は個人の問題ではないと、私は思っています。じゃあ何が問題なのかというと、いろいろな要因があるので一言で言い表すのは難しいのですが、強いて言えば
「それ以上その仕事を続けるのはムダだから」
だと思っています。彼らにはその仕事を3日以上続ける価値がないんです。割りに合わない。時間のムダ。
続ける価値がない理由はどこにあるのか、少しだけお話ししてみたいと思います。
とにかく薄給
台湾の最低賃金はここ数年上昇はしていますが、2022年現在でも2万5,250元(約10万円)と、物価に対して相当低いです。
日本企業のような手当もほとんどありません。求人情報に書いてある「食事手当」などは、お給料に上乗せではなく、お給料の中に含まれる形になるので、実質上はゼロです。毎日の通勤交通費なんて一銭も出ませんし、住宅手当ももちろんありません。
残業代は、上場企業や外資系はキッチリ出すところが多いようですが、台湾系の会社はほぼなしと考えていいと思います。あったらラッキーな方です。在台日系企業も、いろいろとごまかして払っていないところもあるそうです。(※ただしエンジニアなどの技術職は台湾系でもキッチリ出るそうです。)
仕事の重さとお給料を天秤にかけること、割りに合っているか?を考えることは、ごく自然なことだと思います。
日本企業の勘違い
日本企業の採用担当者は、たまにこんな勘違いをしています。
「台湾人で日本企業に応募してくる人は、日本や、応募した日系企業に憧れている。」と…。
そして、入社さえさせてしまえば、彼らはその企業の「一員」で、入社した後に何があっても、最低でも3年間は、会社のために貢献するのが普通。仕事内容うんぬんは二の次だ、と…。
こういう考え方の日本企業は、「人が足りないから」と言って、ある程度のポテンシャルがありそうな社員を適当に面接して入社させます。そして、入社後に、面接の時に話をしていたのとはまったく違う仕事をその社員にやらせたりします。こういう日本企業は、その企業の一員であることがとても大事なことで、仕事内容や本人の向き・不向き、プロフェッショナルなスキルなどは二の次なんですね。
でも台湾人からしたらどうでしょう。面接の時によく話し合って、内定をもらって、それから入社したのに、いざ入社してみたら、自分の仕事内容は面接の時に聞いていた仕事内容と違うことを知った。自分の専門分野ややりたいことと違った。面接の時ちゃんと質問して確認していたのに、自分がどうしても受け入れられない仕事内容が含まれていた…。
私だったら会社に「騙された」「自分の時間をムダにされた」と思います。そして、できる限りすぐ辞めます。台湾ローカルスタッフからしたら、長く続ければ続けるほど履歴書が汚れるだけだからです。
嫌いな仕事を一生懸命やって、スキルは上がるかもしれませんが、次に転職するときはその嫌いな仕事の職務経験に頼って新しい仕事を探さなければならないのです。地獄です。
もしこれで日本並みのお給料と福利厚生があれば、その待遇のために我慢して働く、ということもあると思います。でも、台湾の場合は薄給すぎるので、待遇のために理不尽を受け入れるということはなかなかないのではと思います。
例えばのお話ですが、日本円で考えたとして、仮に月給10万円で、家賃が4万8千円、食費が3万2千円だとします。手元に残るお金はほとんどないか、赤字です。福利厚生も、台湾スタンダード=ほぼゼロです。新しい勤務先に入社した直後、面接の時には聞かされていなかった、自分のスキルと全然関係ない、自分のスキルアップにつながらない、好きでもなんでもない仕事をやれと言われたら、どうでしょうか?メリットはほぼありません。長居は無用です。
▼日本の働き方は特殊。ジョブ型とメンバーシップ型についてはこちら
【台湾&日本】取り巻く状況 比較表
ご参考までに、本人の経験と、友人や同僚から聞いた内容による、台湾・日本の働き方の違いを表にしてみました。(※随時更新。)
台湾で働く方が不利なこと
台湾 | 日本 | |
厚生年金 | なし。 日本の国民年金のような制度はあります。 厚生年金のような、会社が独自で何かを運用してくれるようなものは基本的になし。 | あり。 |
年金 | 年金だけの生活は難しい。 | 年金生活ができる。 |
昇給 | 少ない。良い場合は一年に2,000元など。1,000元でも、あればまあまあいい方。 昇給ゼロが何年も続くことは普通。 家族経営の会社が多いので、労働組合もなく、会社に意見したとたんクビにされたりする。 だからみんな転職するタイミングでお給料を上げようとする。 | あり。私の経験だと2年目から毎年あった。 金額は5〜6千日本円くらい。 ボーナスも、台湾でいただいている月数の2倍の月数いただいていました。 労働組合があったので、ベースアップやボーナスについての協議がありました。 |
株への投資 | 多くの人がやっている。 主な理由は、給料が少なすぎるから。 年金も少なすぎてお給料だけでは生活が苦しい。 会社が運用してくれないので自分で運用しようとするのは当然のこと。 | 多くの人はしていない。 同期でもやっているのは一人くらいしかいなかった。 |
副業 | みんながみんなやっているわけではないが、 副業をすること自体は当たり前のこと。 主な理由は、会社からの給料が少なすぎるから。 お給料だけでは車も家も買えないし、子育てなんてもってのほか。 | ほとんどの人がしていない。 会社が副業を禁止している場合も多い。 |
長期休業 | 産休2ヶ月のみ。私の同量たちを見ていると、キッチリ2ヶ月で復帰する人が多い。 | 私が日本で働いていた会社では、産休取得者は最低でも1年取っていた。 |
退職金 | 何年勤めてもゼロ。 | あり。日本で6年くらい働いていた会社は、退職金70万円くらいだった。 |
解雇 | 会社の経営状況や社長の気分で突然簡単にクビにされる。 台湾に来て6年、自分も含めて10人近くの友人・知り合い・同僚がある日突然クビになっている。 台湾あるある。 | 突然クビになることはほとんどない。 |
日本と比べると、台湾では社員もすぐやめますが、社長がすぐ人を切ることも多いです。理由は、経営が苦しくなったということや、社員の業績不振などと聞きますが、単にその社員のことが嫌いだったのであら探しをして辞めさせているパターンもけっこうあります。
ところで、台湾では物価に対してお給料が少なすぎるので、会社で不正をしてマージンを得たりしている人もけっこういます。それが発覚してクビになった人も。
そこまで行くと、もはや卵が先か、鶏が先か…わからなくなってしまいますね(-_-;)
台湾で働く方が有利なこと
台湾 | 日本 | |
所得税 | 税率が低い。 5%〜。 控除される項目も多く、私の場合、台湾人義父母の扶養とか住宅ローンとかでバンバン控除できる。 | 住んでいる自治体によるが、比較的高い。 |
健康保険 | 安い。私の場合、月1,000元行かない。 | 日本にいるときはお給料の7%くらい引かれていた。 万単位なので台湾と比べると文字通り桁違い。 |
年金の積立 | 会社負担で給料に6%上乗せ。 ただしブラック企業は給料から6%天引き。 ※永久居留証や配偶者ビザをお持ちの方は、入社前に、ちゃんと上乗せしてくれるか念を押すことをおすすめします。 | 給与から天引き。 |
新卒を一斉に採用 | なし。 特に男子は学校卒業後兵役があることもあって、学校卒業後の就職のタイミングは人それぞれ。 卒業後ブランクがあっても、それを面接で責められることはほとんどなし。 | 新卒一斉採用に乗り遅れると、後々いろいろな差別を受ける。 |
転職回数に対する差別 | なし。 | あり。 特に3年未満・ 1年未満での退職歴があると、面接で そのことをしつこくほじくり返される。 |
台湾では、何かあったとき、会社や国が守ってくれるものや受け取れるものは少ないですが、その分 気楽という一面もあります。
面接で、職歴のブランクや、転職回数についてしつこく詰問されることはほぼありません。台湾人社長は「この人物は使えそうかどうか?」の方を重視します。
見返りが少ないので、待遇のためや家族のために無理して働き続けて、身体を壊してしまうことも、日本に比べたらずっと少ないです。健康に重大な影響が出るようであれば、休むか辞めればいいのです。そして次に行けばいいのです。
おわりに
以上、台湾ローカルスタッフがすぐに辞める理由についてでした。
確かに忍耐ということを知らない社員もいますが、雇う側も、台湾人を取り巻く環境や、台湾人スタッフがどういうことを考えて職探しをしているかよく理解すべきです。
台湾人スタッフにとっては、日本の「○○株式会社」の一員になることや、一生その会社で働くことは、あまり重要ではありません。でも、自分の専門分野を生かしたい、そのためにはある程度の下積みは受け入れる人は多くいると思います。(たとえば、新卒で超多忙な会計事務所に入社して、2〜3年くらい、深夜残業ありの仕事を経験するとか)あるいは、お給料は少なめでもいいから、仕事は比較的楽なのがいいと考える人もいます。(こういうポジションの人には残業や本来の仕事の範囲以上のことをさせて搾取してはいけないと思います。)
その上で、採用側は
「自分たちはどういう人材が欲しいのか?」
をより具体的に考えるべきだと思います。
そして、
「設定している給与は低すぎないか?」
「候補者と真剣に面接しているか?」
「自分たちの会社は果たして魅力的なのか?」(将来性、ビジネスモデルなど)
…といったことをもっとよく考えるべきです。
台湾人/台湾ローカル社員についていろいろ文句を言う前に、自分たちのやり方についてよくよく反省すべきだと思います。台湾人求職者からしたら、将来のキャリアプランや生活がかかっているのです。
今回はここまでです。今日もご覧いただき、ありがとうございました!
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